特集 映像化された片岡義男作品
片岡義男には、映像化された小説がいくつか存在します。代表作として常に名が挙がる『スローなブギにしてくれ』や、薬師丸ひろ子さん主演で主題歌もヒットした『メイン・テーマ』、そして当時の若者をオートバイへと駆り立てた『彼のオートバイ、彼女の島』などの映画がよく知られていますが、テレビドラマになった作品も存在します。
この特集ではそうした映像化された作品を中心に、ラジオドラマとなった作品も含めてご紹介します。
『スローなブギにしてくれ』(1981年4月公開)
監督:藤田敏八
脚本:内田栄一
製作:角川春樹
出演:浅野温子、古尾谷雅人、山崎努、岸辺一徳ほか
原作:『野性時代』(角川書店)1975年8月号掲載
今や片岡義男の原作よりも、南佳孝さんが歌う主題歌『スローなブギにしてくれ(I want you)』の方が80年代シティ・ポップの名曲として知名度が高く、この曲が映画の主題歌であったことは今の若い人たちは知らないかもしれません。藤田敏八監督による『スローなブギにしてくれ』は、浅野温子さんの初主演作でもあり、片岡義男初の映画化作品ですが、実は『ひどい雨が降ってきた』『俺を起こして、さよならと言った』の2作品が織り交ぜられており、オリジナルのエピソードなどが入っています。そのためか、本来の主人公であるゴローよりも山崎努さん演じる中年男性に焦点が移ってしまった感がありますが、浅野温子さんの演技は今も新鮮です。なお、映画公開当時に片岡義男は浅野温子さんと対談を行っています。
『メイン・テーマ』(1984年7月公開)
監督:森田芳光
脚本:森田芳光
製作:角川春樹
出演:薬師丸ひろ子、野村宏伸、桃井かおり、財津和夫、太田裕美ほか
原作:カドカワノベルズ(1984)刊
小説『メイン・テーマ』は「薬師丸ひろ子主演映画の原作として一冊書いて欲しい」という、当時角川書店の社長だった角川春樹氏の依頼を受けて1983年に発表されたものです。その時点で監督は森田芳光氏に決まっていたため「小説のストーリーをなぞりたくてもなぞれないような構造を原作に持たせた」と、片岡は後年に述懐しています。映画の脚本は森田芳光監督が自ら執筆し、小説と似通った設定はあるもののほとんど別の作品になっています。1984年に原田知世さん主演の『愛情物語』との2本立で公開され、その年の邦画で配給収入2位というヒット作となりました。小説は当初の構想では全12作品の予定でしたが、実際には『メイン・テーマ2』『メイン・テーマ3』の2作品で終わっています。
『湾岸道路』(1984年9月公開)
監督:東陽一
脚本:金秀吉、東陽一
製作:植村伴次郎、前田勝弘(東北新社、幻燈社)
出演:草刈正雄、樋口可南子、小林薫、マリアン、清水健太郎ほか
原作:『野生時代』1981年12月号〜1982年3月号掲載
『湾岸道路』は片岡義男作品のうち、唯一角川映画以外で製作された作品です。『もう頬づえはつかない』(1979)や『四季・奈津子』(1980)の東陽一監督がメガホンをとり、草刈正雄さんと樋口可南子さんという美男美女が主役の男女を演じたこの作品ですが、賛否半ばで興行的にも同年公開の『メイン・テーマ』には及ばなかったようです。その後VHS(テープ)とレーザーディスクまでは販売されましたが、その後DVDなどにはなっておらず、ほとんど観られる機会がありません。ちなみに同時上映は『エマニュエル』(フランス映画/フランシス・ルロワ監督)でした。
『ボビーに首ったけ』(1985年3月公開)
監督:平田敏夫
脚本:石森史郎
製作:角川春樹
プロデューサー:丸山正雄、岩瀬安輝
キャラクター・デザイン:吉田秋生
声の出演:野村宏伸、根津甚八、村田博美ほか
原作:『子供の館』1977年3月号掲載/角川文庫1980年
片岡義男作品唯一のアニメーション作品で、1985年に同じくアニメーション映画『カムイの剣』と同時上映されました。キャラクターデザインを漫画家の吉田秋生さんが手掛けたことや、映画『メイン・テーマ』でデビューした野村宏伸さんがボビーの声を担当したことでも話題になりましたが、当時一般にはあまり馴染みのなかったであろうアニメーションの様々な手法を駆使しており、現在でもアニメーション関係者の間では評価の高い作品です。また、80年代当時の日本がそのままアニメで描写されている点も見逃せません。監督の平田敏夫さんはレナウンなどのテレビCMを多く手掛けていた方で、『ボビーに首ったけ』は自身が片岡作品の中から選んだとのことです。ただ、残念ながらこの作品もレザーディスク以降はメディア化されておらず、なかなか見ることのできない作品のひとつです。
『彼のオートバイ、彼女の島』(1986年4月公開)
監督:大林宣彦
脚本:関本郁夫
制作:角川春樹
プロデューサー:森岡道夫、大林恭子
出演:竹内力、原田貴和子、渡辺典子、高柳良一ほか
原作:『野生時代』1977年1月号/角川文庫1980年
『彼のオートバイ、彼女の島』を読んでオートバイにあこがれ、免許を取って乗り始めたという人は数知れず……というほど当時の若者に影響を与えた作品ですが、原作が書かれたのは1977年であり、映画化されたのは1番遅く1986年でした。CMディレクター出身で『ねらわれた学園』(1981)、『時をかける少女』(1983)、『さびしんぼう』(1985)などで当時若者に人気のあった大林宣彦監督がメガホンを取りました。竹内力さん、原田貴和子さんのデビュー作としても知られていますが、原作とは結末が異なることや、大林監督独自の表現が随所にあることから、評価が分かれる作品となっています。一方、この映画を見てオートバイに乗り始めたという方もあり、新たな片岡義男作品のファンを掘り起こしたことは間違いないでしょう。
『ハートブレイクなんてへっちゃら』(1977年6月)
監督:竹島将
脚本:竹島将
製作:アクターズ・ユニオン
出演:佐藤公彦、清水富美子、竹島将、片岡義男ほか
原作:『野性時代』1976年1月号掲載
この映画版『ハートブレイクなんてへっちゃら』は、「ファントム勇者伝説シリーズ」や「野獣舞踏会シリーズ」で知られる作家の竹島将さん(1957〜1990)が監督と脚本を務め、フォークシンガーの佐藤公彦さん(愛称:ケメ)を主役に起用した作品です。各種映画データベースには必ず紹介されているのですが、実際に観た方の感想などが見つからず詳細は不明です。ちなみに片岡義男はDJ役で出演しています。
■その他の映像作品
ドラマ『ハートブレイクなんて、へっちゃら』
放送局:NHK総合
放送日:1988年9月3日 21:15〜22:15
主な出演者:奥田瑛二、秋吉満ちる、手塚理美、范文雀、洞口依子、柳沢慎吾、新藤栄作、有森也実
NHKで1988年に1時間の単発ドラマとして制作されたもので、『ブルー・ムーン』『きみを忘れるための彼女』『別れて以後の妻』『ハートブレイクなんて、へっちゃら』の4作品がオムニバス形式でショート・ドラマとして放送されました。奥田瑛二さんが小説家とその作中の男性の2役を演じるほか、洞口依子さんが全話を通して出演しています。
※参考:テレビドラマデータベース
■参考 ラジオ番組化された片岡義男作品。
片岡義男作品には映画、テレビだけでなくラジオドラマ化された番組もあります。
『スローなブギにしてくれ』(1977年6月)
放送番組名:NHK-FM「ふたりの部屋」
放送日:詳細不明(全5回または10回。各話15分 ※放送当初は10分)
出演:佐藤祐介・神保美喜
NHK-FM「ふたりの部屋」は、現在も放送されているNHK-FMの帯ドラマの初期の番組で、1978年から1985年まで放送されたものです。新井素子さんのようなライトノベル、林真理子さんや椎名誠さんなどのエッセイ、シリアスなストーリーからコミカルなもの、シュールなものまで、月曜から金曜の夜11時台に放送されていました。NHKのサイトによると『スローなブギにしてくれ』の出演は佐藤祐介さんと神保美喜さんですが、音源も存在せず、他の詳細は不明です。もし情報をお持ちの方があれば、ぜひご一報ください。
『さっきまで優しかった人』
放送番組名:NHK-FM「カフェテラスのふたり」
放送日:1986年12月15日~12月19日(全5回、各話10分)
出演:山田康雄、山村美智子
「カフェテラスのふたり」は、現在NHK-FMで放送中の「青春アドベンチャー」の前身となる番組で、1985年4月から1988年3月まで放送されていました。『さっきまで優しかった人』の出演はルパン三世の声優として知られる山田康雄さん(1932〜1995)と山村美智子(現・山村美智)さん。1985年刊行の『さっきまで優しかった人』(新潮社)の収録作品から表題作及び『きみはただ淋しいだけ』など5作品をラジオドラマ化したものです(一部改題あり)。男女二人の会話をベースに進行する物語に脚色されていたようです。
『吹いていく風のバラッド』
放送番組名:NHK-FM「サウンド夢工房」
放送日:1990年9月8日〜9月17日(全10回、各話15分)
出演:辻萬長、島本須美
「サウンド夢工房」は「青春アドベンチャー」(2015年スタート)の前に放送されていた番組です。1990年に放送開始、小説だけでなくエッセイも題材として取り上げていました。出演・ナレーションは男女二人のみ。『吹いていく風のバラッド』の男性役はドラマや映画、舞台で活躍した俳優の辻萬長さん(1944〜2021)。女性役は『ルパン三世 カリオストロの城』や『風の谷のナウシカ』の声優として知られる島本須美さん。『吹いていく風のバラッド』の全28編の中から10編が選ばれ、それぞれにタイトルが付けられています。
※『さっきまで優しかった人』『吹いていく風のバラッド』のラジオ番組については、ブログ「青春アドベンチャー雑記帳」さんの記事を参考にさせて頂きました。
Previous Post