故郷へ帰りたい
故郷へ帰りたい
高速道路にあがると、都会の匂いがいっそう強く全身に感じられた。
初夏の快晴の日だ。だが、都会は薄黄色いスモッグにおおわれていた。せっかくの青空は、そのスモッグにさえぎられ、頭上のほんのせまい部分がうっすらと青いだけだ。
陽ざしの強さは、しかし、スモッグごしでも充分感じることができた。
陽に照らされたコンクリートの路面にこすりこまれている、タイアのゴムの匂い排気ガスの匂い。ディーゼル・トラックの、黒い排気にひそむ重い匂い。<…
底本:片岡義男エッセイ・コレクション『彼の後輪が滑った』太田出版 一九九六年
初出:『野性時代』一九七八年七月号(音楽のきこえる話「ジョン・デンヴァーの故郷へ帰りたい」)
『アップル・サイダーと彼女』角川文庫 一九七九年所収
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