エッセイ13作品を公開
『スターダスト・ハイウエイ』『冬の本』『アール・グレイから始まる日』からエッセイ13作品を片岡義男.comで本日公開いたしました。
・『スターダスト・ハイウエイ』(角川書店/1987年)より2作品
都会という、何重にも虚構のつみかさねられた内部に生きるのは、くりかえされる自然の営為とは無関係に、目をむけずに生きることだ。黒潮の濃いブルーの流れからも、日本をおおう雨雲からも都会の人々は遠い。その何度目ともわからない確認としてぼくは――。
ブルース・スプリングスティーンのロックンロールは、おおむね丸くなってしまって鈍い、当面のことに対してほとんど意味を持たないロックンロールとはまるでちがって鋭角的であり、都会の荒々しさを存分にたずさえて激しくやさしく、パーカッシブだ。
・『冬の本』(夏葉社/2012年)より1作品
季節の本の基本は歳時記だ。一冊だけ持っている歳時記の冬の季語を見ていたら、初めて知る言葉があった。その意味に納得した僕は、短編小説の女性の主人公を頭に思い浮かべた——。
・『アール・グレイから始まる日』(角川文庫/1991年)より10作品
昼寝の本を書くために昼寝をしにいく—―。五月のある日、僕は新幹線に乗って京都へいった。昼寝の実践はすでにずいぶん積み重ねてあるが、京都で昼寝、というわけだ。
どこの誰でもない、いっさいなに者でもないひとりの自分に立ち返り、どこでもない不思議な中間的な場所を飛行機で飛んでいるという抽象的な存在のしかた、それが夜間飛行の魅力を支える中心だろう。
僕は椅子にはきわめてうるさい。いま滞在している部屋には日本製とアメリカ製のふたつのディレクターズ・チェアがある。どちらも、じつにすわり心地がいい。
一日を本屋さんで過ごすと、買う本が大きな段ボールいっぱいになるものだが、僕がいまのところもっとも気にいっている本屋さんでは――。
酒瓶を眺めるのが好き。ひと口ずつ味わってみるのが好き。ひと口だけ飲んでみた世界格好の酒を友人に進呈するのが好き、という僕は、酒が嫌いなわけではないけれど、いわゆる酒を飲む人ではないようだ。その僕が思いはじめているのは—―。
多くの分野で、さまざまな言葉が、カタカナになりつつある。新発売の物をイメージに転換するにあたって、もっとも便利に使えてある程度の効果があがるのは、カタカナ言葉に置きかえることだが—―。
値段が安いのものは魅力的に見える。それが手軽に利用できれば、さらにその魅力は大きくなるが、うかつにそればかり買っていると、大きなつけがまわって来るのではないか。なぜなら「安くて手軽」とは、「質が低くて内容がない」ことの別の言いかたにすぎないから。
日本語で読んだのちに英語で読んだとき、そのあっけなさに驚いた—―。原文で読むよりも翻訳で読んだほうがはるかに楽しめる、原文の持つ世界と訳者が持っている日本語世界が、気質的にどこかで見事に一致した幸運な例がある。
心のなかに強く残っている映画に共通する特徴は、僕の場合、犯罪を扱ったものでしることだ。そこまではいかなくとも、犯行や抵抗など絶対に欠かせない要素だ。そのなかから一本を選ぶなら、『拳銃魔』だろうか。
神田・駿河台下の金ペン堂という店へ最初に入ったのは、僕が二十代なかば頃のことだった。原稿をたくさん書くのだがいい万年筆がなくて困っている、と言う僕の字をひと目見たご主人は、一本の万年筆をガラス・ケースのなかから出してくれた。それを買い、使ってみた。
2022年3月4日 00:05 | 電子化計画
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