蟹に指をはさまれた
四歳のときに僕は東京から瀬戸内へ移った。初めに住んだのは祖父が作った大きな家だった。二階からは目の前に瀬戸内の海が見え、うしろは裏庭のいきどまりが中国山脈の山裾の、始まりの部分だった。その家の前に川があった。地元の人たちは入り川と呼んでいた。海の満ち引きとともに、水位は大きく上下した。干潮時の水深は十センチもなく、満ち潮の時の深さは五メートルにはなったろう。
僕の住んだ家の前あたりが、その川で遊ぶ子供たちにとって、もっとも適していた。おなじ川でもほんの少し位置が変わるだけで、遊ぶ子供を受け入れない気配や危険があった。…
底本:『自分と自分以外──戦後60年と今』NHKブックス 2004年
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