風に恋した
「最高だった!」
と、彼女は、言っていた。
瞳が、輝いていた。
瞳が輝くその瞬間、彼女の全身が、生き生きしていた。
なにがそんなに最高だったのか、ときくと、彼女は、次のようにこたえた。
「うーん、ひとことで言うとね、そう、風なの。風」
「風?」
「そうよ。自分の全身に、風が来るの。風があんなに素敵なものだとは、それまで一度も感じたことはなかったし、思ってもみなかったことだから」
彼女は、二十五歳になる。
…
底本:『ターザンが教えてくれた』角川文庫 1982年
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