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エッセイ

少年食物誌

 瀬戸内海に面した小さな港から内陸にむかって、一本の川がのびていた。港から入江に入りこみ、山陽本線の鉄橋をくぐると、その川の両側は石垣のスロープになり、スロープの上には漁村とも農村ともつかない不思議なたたずまいで、瀬戸内のひなびた田舎町のエキゾチックな家なみがある。
 その川の幅は、山陽本線の鉄橋をくぐったあたりで、30メートルくらいだったろうか。内陸へ入りこむにしたがって、川幅はすこしずつせまくなっていた。ローカルピープルたちは、その川のことを、入り川、と呼んでいた。
 海の満ち引きに応じて、その川の水位…

底本:『アップル・サイダーと彼女』角川文庫 1979年

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