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評論・エッセイ

自分とはなにか

 自分とは、生まれてから現在まで生きてきた、そしていまもこうして生きているこの個体である、という言いかたは、確かに事実の一面を言いあらわしている。では、その個体は、いま、なになのか。こういう質問にはどう答えればいいのか。ですからいまの自分はここにいるこの私です、というような答えでは、らちは明かない。
 自分とは記憶である、としか言いようはないだろう。生まれてから現在までのあいだに体験したこと、つまり頭のなかや体のなかに入って、いまもそこにとどまっているものすべて、それが自分だ。そのような記憶に関して、自覚のあるないは問わ…

底本:『自分と自分以外──戦後60年と今』NHKブックス 2004年

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