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評論・エッセイ

瀬戸の潮風、うどんの香り

 岡山県の宇野と四国の高松を結んでいた宇高連絡船に僕が初めて乗ったのは、三十代のちょうどなかばだった。そして最後に乗ったのは、瀬戸大橋が完成して連絡船が廃止されることになる前の年、一九八七年の夏のことだ。三十代なかばから四十代の後半が始まったばかりまでの、十年ちょっとのあいだに、僕はこの宇高連絡船に十五回は乗っている。往復で一回と数えているから、乗船回数は三十回ということになる。乗っておいてよかったといまつくづく思うし、もっと乗っておけばよかったのに、とも思う。
 東京生まれの僕は本質的にはただの東京の子供であり、いまも…

底本:『ピーナツ・バターで始める朝』東京書籍 2009年
初出:『AZUR』東京ニュース通信社 2008年7月