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エッセイ『サーフシティ・ロマンス』より8作品を公開

エッセイ『サーフシティ・ロマンス』(晶文社/1978年)より8作品を本日公開いたしました。

 輝く熱い陽光の中で、砂浜の草地に一人で座っている彼女。沖合ではサーファーがひとり、波乗りをしている。高く盛り上がった波の、濃いブルーの腹をサーファーの赤いボードが切り裂いていく。崩れ落ちる波がサーファーを追いかける。その様子を見ていた彼女の耳に、風に混じってギターの音が聞こえてきた。風が彼女のところに音を運んでくる。波の音、椰子の葉の音、風の肌ざわりなどを、ギターの音が完璧にひとつに統合していた。サーフィンと音楽と、若い男女のファンタジー。

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 波乗りはとても個人的な世界だ。波乗りそのものが高度にインディヴィディアルであり、波乗りに深く巻き込まれる人たちも、個性的に独立した個人だ。だから自分のサーフボードは紛れもなく自分自身であり、ボード選びは重要な問題だ。歴史を紐解けば、ショート・ボードの出現はいろんな意味でサーフィンにとって革命だったことがわかる。サーファーたちは、今自分がこなしている波乗りの領域の、さらにむこうにあるものを追って創意工夫を重ねていく。いつも誰かが、サーフボードに関する新しい実験を行なっている。なぜなら、自分が考え出した世界、自分が追求している乗り方の世界が、どのサーファーにもシェーパーにもあるから。

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 波乗りが高度に個人的な世界であるように、サーフボードも同じく個人的なものだ。まず、自分がどこの波にどんな乗り方をするか、それが決まらないとボードが選べない。ボードをつくるシェーパーも、作り手であると同時に一流の乗り手でもあるから、波乗りのすべてが個人的なのだ。だから誰が買うのか予想もつかないままに、サーフボードがサーフショプで買い手を待っている光景は、極端に言えばとても矛盾している。シェーパーは1本のサーフボードに、自分の論理の集大成を結晶させる。波乗りやサーフボードについて学びたければ、サーフボード・シェーパーのやっていることを学べばいい。

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 波をうまくつかまえたその瞬間、波の凄まじいエネルギーをサーフボードの下に感じる。波は自分を放り上げてくれる。その瞬間には、周りにあるすべてのものが見える。波と海岸の間を飛ぶ1羽のカモメ。椰子の樹のむこうにある白い家……。太陽が遠い水平線のむこうに落ちこむ頃、ほのかなシルエットになって、ひとりのサーファーが波のむこうから現れて波の頂上へ持ちあげられる。それはひょっとすると、まだ沖にいるもうひとりの自分かもしれない。

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 珊瑚礁の浅瀬は、一番浅いところで1メートル50センチあるかないかだろう。太平洋から島に近づいてきた波は、ここに乗りあげ行き場を失う。波は内部のエネルギーのありったけをひきつれて高く盛り上がり、内側にチューブ状の大きな空間を作りつつアーチになって前へ前へと伸びていき、パイプラインと呼ばれるチューブ状に崩れる強力な波になる。波のスピードに確実に勝ちつつ、ボードに腹ばいでパドリングを続け、決定的な瞬間にボードに立ちあがる。鋭い峰となって一列にきりたつ頂上を、ボードごと突き破って前へ飛び出す。チューブになった波の壁に向きあうかたちで、ボードは波と平行だ。横っ腹を切り裂きつつ、そのチューブと競争する。

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 ハワイのカヘ・ポイント・ビーチ・パークの北側に発電所がある。この発電所で使った冷却用の熱水が、沖に向かって伸びた排水パイプによって海に捨てられている。さらに沖合に捨てるため、コンクリートの構造物が作られることになったが、そうなるとサーフィンのための好適な天然の波が永久に壊されてしまう。地元の抗議団体に対し企業側はコンクリートの浅瀬を作ることを提案するのだが……。

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 サーフィンの実体験を通して、サーフィン感覚の核心の把握ができてさえいれば、相当な感銘を与えうる映画を自分一人で創ることができるのではないか……。これまでに数多く創られたサーフィン映画の傑作の多くは、撮影者がたった一人で創り出したフィルムなのだ。16ミリ撮影機と三脚、各種のレンズ、そしてフィルムがあれば、それでいい。セットは太平洋とその中の小島という大自然。俳優は、波とサーフボードとサーファーだ。そして、自分が充分だと確信するまで対象とつきあい、フィルムに収めれば良い。

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 海沿いのハイウェイを、コバルト・ブルーのビュイック・スカイラークが1台、走ってきた。若い女性がひとりで運転している。ジュディだ。ハイウェイが直線の部分で、彼女はしばしば海に目を向けた。彼女は恋人・ジャックの友人であるマイクから連絡を受け、初めてノース・ショアへやって来た。そこは、嵐の日にジャックが命を落とした湾だった。その夜、マイクに見せられた8ミリフィルムには、短い時間ながら、その時に起こったすべてが写っていた。

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2022年10月25日 00:00 | 電子化計画

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