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これが天使の町だって?

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 ロサンゼルス空港を飛び立った飛行機が、高度をあげていった。主翼のすぐ前の窓際にすわって、窓の外を見ていた。ぴかぴかにみがかれた主翼が、冬の午後の太陽をうけとめて光り、まぶしかった。

 眼下に、ロサンゼルスの町が広がっていた。おおむねまったいらな土地いっぱいに、無数の建物と道路が、びっしりとつめこまれているのが見渡せた。光線の加減なのか、なぜかあらゆる建物が一様に淡い褐色に見えた。

 飛行機が、さらに高度をあげた。見渡している下界の広さが、そのぶん広くなっていった。道路に自動車が走っているのが見えた。小さな四角いものが、道路の中を走っていく。屋根の色が、赤、青、黄色と、さまざまなパステル・カラーだった。

 建物と建物とのあいだには、どのブロックにもほぼかならず、駐車場があった。さまざまな色をした小さな四角の自動車が、どの駐車場にもたくさん、じっとしていた。

 サンタ・モニカ・フリーウェイの上を飛行機がこえたころ、窓におでこをくっつけ、前方を見た。高層ビルのかたまって建っている地帯が見えた。ロサンゼルスのダウンタウンだ。シヴィック・センターやシティ・ホールなどの建物が、薄黄色くただよっているスモッグごしに、認められた。

 ザ・スタック(つみかさね)と呼ばれている、四層のインターチェンジも、上空から見ることができた。自動車のためにできた大都会ロサンゼルスが持っている、いくつかの有名な象徴的建造物のひとつだ。

 さらに前方に目をむけると、サン・ゲイブリエル・マウンテンズの、白く雪をかむったつらなりが、ロサンゼルスをとりかこんでいる巨大な壁のように、見えた。

 人工的に造られた都会ロサンゼルスと、そのすぐ裏手にどっしりと立ちはだかっている自然の山々の重みと大きさとを、同時に見ることができた。

 自然というものに対して妙な肩入れをするわけではないけれど、自動車によってかたちづくられたロサンゼルスがいかに大都会であろうとも、やはり圧倒的に大きくて強力なのは、人工的な手助けをなにひとつ必要とせずにただ黙々と横たわっているサン・ゲイブリエルの山々であり、その峰を白く飾っている雪だった。

 サン・ゲイブリエルの山々をこえたむこう側の荒野の北に、シェラ・ネヴァダの山がつらなっている。ロサンゼルスは、この山から巨大なパイプラインでひっぱってくる水なしでは、一日たりとももたないのだ。

 雪をのせた山なみの手前に、バーバンク、グレンデイル、パサディナ、ポモナ、サン・バーナディーノ、リヴァーサイドなどが、遠くかすんだなかに、ほんとうに頼りなげに見えた。そのさらに手前、太平洋にこぼれるようにして、ロサンゼルスの町が、まさにハリウッドの撮影所のセットのように、はかなげに立ちならんでいた。

 飛行機は、やがてサン・バーナディーノの上空を飛び、サン・ゲイブリエルの山々をこえてしまった。

 とたんに、海ぞいの人工的な都会は跡かたもなく消え去り、モハーヴェ砂漠の荒漠たる広がりだけが、私の目に映じた。ロサンゼルスの雰囲気や時間をとどめた機内から、砂漠をじっと見おろしていると、不思議な気持だった。ロサンゼルスという大都会は、自然というものからできるかぎり逃げていたいという、多分にクレージーな衝動にもとづいて造りあげられた都会であるのだと、ひしひしと感じられた。太平洋に落ちこみそうな一角に、人工の場所をつくってひしめきあい、人々は自動車で動きまわり、その自動車は人工都市の上空にスモッグの層を常につくりだしている。

 砂漠を見ながら、ロサンゼルスで知り合った若い白人の交通警官のことを、思い出した。

 彼は、毎日、来る日も来る日も、ヘリコプターでロサンゼルス上空に舞い上がり、フリーウェイの車の流れを見ている。空を飛びまわれば、たとえばラッシュ・アワーにどこの道路が混んでいてどこに渋滞ができているか、ひと目でわかる。上空から観察したその状況を、地上のパトロール・カーやコントロール・センターに知らせる。

 上空のスモッグに目や喉をいためながら、小さな四角い自動車の流れを、彼は毎日、仕事としてながめている。

 そのような彼の、仕事をはなれた時間での趣味は、女装だという。美しく女装してパーティに出たり、女装の集会やコンテストに参加したりもするという。ロサンゼルスの若い交通警官が美しく人工的に女装するのはじつにロサンゼルス的であったし、たくましい微笑は健康的であると同時にきわめてたいはい的でもあった。

底本:『アップル・サイダーと彼女』角川文庫 1979年

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2016年12月25日 05:30
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