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評論・エッセイ

「そいつぁ、いかすぜ」

「いかすぜ」という言いかたが登場したのは、一九五〇年代のなかばだったと思う。当時のひとりの映画スターの個人的な口ぐせのような言葉だったが、ものの見事に時代を反映していたがゆえに、十代後半から二十代前半の、戦後生まれとは言えないものの戦後育ちではあった、若い人たちのあいだにいっきに広まった。子供の僕もしきりに使った記憶がある。「いかしてる」「いかすじゃないか」といった肯定の使いかたに対して、「そんなのいかさないよ」という否定の使いかたのある、いかすいかさないで躊躇なしに対象を二分する思考を、外に向けてあらわにする言葉だ。当時の若い世代に…

底本:『自分と自分以外──戦後60年と今』NHKブックス 2004年

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