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エッセイ

海苔を巻いたおにぎりの謎

 つい先日、残暑が続く平日の午後、いつもの私鉄の電車に乗って、僕は新宿に向かった。空いている席があったので僕はそこにすわった。電車のなかで僕は本を読んだりしない。その反対の居眠りもしない。いっぽうの極に読書があり、もういっぽうの極が居眠りだとすると、そのどちらもしない僕は、居眠りと読書の中間に位置しているはずの、なにをするでもない、これといってなにを考えるでもない、ぼんやりとした曖昧な時間のなかを漂っている。
 僕の向かい側の席にひとりの男性がすわっていた。定年退職してから数年が経過した、というような年齢だろうか。最近の…

底本:『自分と自分以外──戦後60年と今』NHKブックス 2004年

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