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エッセイ

僕の父親はDadだった


 自分のことをDadと呼べ、と父親がはっきりと僕に言ったときのことを、遠い思い出ではあるけれど、いまでも僕は覚えている。戦後すぐのことだった。当時の僕は五歳ないしは六歳で、ちょうど物心がついた年齢だった。
 自分の父親はきわめてすんなりと、Dadになった。しかし、これからは自分のことをDadと呼べ、とわざわざ言ったからには、それまでの幼い僕は、父親のことをDadとは呼んでいなかったのだろう、という推測が成立する。母親は夫のことを、かたわらにいつもいる幼子の僕をも自分に含めて、お父さん、と呼んでいた記憶が…

底本:『Free&Easy』2016年2月号

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