VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

僕の日本語がなぜつうじるのか

 アメリカの爆撃機による東京の空爆を逃れて、山口県の岩国にいた僕は、一九四五年八月六日の朝、友人の家から自宅へ帰るため、ひとりで外を歩いていた。広島に投下された原爆の閃光を、当時五歳の僕は、全身で受けとめるかのように、うしろから受けた。岩国から広島まで、厳島の外側をかすめる直線で三十キロだ。それまで見たことのない、奇妙な黄色い光が、僕のうしろから前方へ走り抜けて消えた。その日の夕方には、例によって屋外での遊びに一日を費やし、自宅に向けて帰る途中、東へ向かっていた僕はちょうど広島の方向の夕暮れの空に立つきのこ雲を見た。立ちどまって見てい…

底本:『文藝春秋』2016年9月号