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評論・エッセイ

1月12日 父のシャツ

 幼年期を終って少年期へ入っていこうとしていたころのぼくにとって、いつも身近にありながら解明不可能な謎をいくつもはらんで常に魅力的であったもののひとつに、父親の着ていたシャツというものがある。なかでも仕事のときに身につけるビジネス・シャツは、魅力的な謎をたくさん持っていた。
 スーツの上衣を脱いでシャツ姿になると、父親の印象はそれだけで一変した。と言うよりちきちんとタイをつけてスーツを着ていると大人の男の印象が、シャツ姿になるとさらにいちだんと強調された。
 シャツ姿のとき、胸もとや肩のあたりに、いつもほの…

底本:『すでに遥か彼方かなた』角川文庫 一九八五年

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