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評論・エッセイ

父親と万年筆

 僕の父親は、ハワイで生まれてカリフォルニアで育った、日系二世のアメリカ人だ。ひとりの人としての核心部分まで二世らしさの貫徹した、謎の多い不思議な人物だった。二世の見本のような人だった、と言っていいだろう。このような人たちも、高齢で次々に消えていきつつある。父親もすでに消えた。
 彼が去ったあとには、父親というひとつの謎が残った。その謎を僕は解こうとは思わないし、彼が生きてきた状況や時代のことを思うと、僕などはまずスケールにおいてとうてい彼にはかなわない。しかし、残された謎が気にならないわけではない。ときどき、気になる。…

底本:『アール・グレイから始まる日』角川文庫 1991年

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