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『酒林』随筆特集よりエッセイ4作品を公開

 香川県琴平にあり、360年以上の歴史を持つ酒造会社・西野金陵(にしのきんりょう)株式会社が、昭和30年から発行している雑誌『酒林』の「随筆特集」で掲載されたエッセイ4作品を本日公開いたしました。

 街を歩いていて新刊本の書店があっても、僕は入らない。しかし古書店には、かならず入る。店によって微妙な差異や歴然たる落差などがあり、それを感じ取るだけでも、古書店には入ってみるだけの値打ちがある。だが、コミックス、文庫、CD、そしてヴィデオだけをかなり大量に在庫している店には、古書店という言葉はあてはまらない気がする。そのようなものが用済みとして手放されたのを回収し、中古としてふたたび供給するという、一種のリサイクル店だ。文庫とコミックスは問題の外として、それ以外のすべての本は、魅力の薄いものばかりを意図的に集めたような古書店だった、などと僕は思う。ふと入った古書店がなんらかの方針を持っている店だと、僕がその店にいる時間は長くなる。立ちどまってタイトルを読み、何冊かは手に取って観察するからだ。

(『酒林』随筆特集 西野金陵株式会社/第58号[1999年9月発行]掲載)

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 この短いエッセイを僕はワープロで書いている。ワープロですべての文章を書くようになって、15年を越えたあたりだろうか。ワープロという言いかたを僕は好まないが、電子式文書作成機などと言うわけにもいかない。ごく普通にワードプロセッサーと書くのが、いまのところもっとも平凡でいい。ワープロで書く、というのもおかしな言いかただ。ワープロで作る、が妥当なところではないか。原稿用紙に主として万年筆で手書きしていた期間が、僕には20年ほどある。20歳から40歳を過ぎた頃までだ。大量の原稿を、次々に、原稿用紙に万年筆で書いた。原稿用紙に万年筆で自分の文章を書いていく行為は、趣味性や個人性のきわめて高い、しかも書き終わったときにはかなりの達成感を味わうことの出来る、精神的にも肉体的にも充実した内容のある行為だ。

(『酒林』随筆特集 西野金陵株式会社/第59号[2000年1月発行]掲載)

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 手動のタイプライターを買うのは久しぶりだ。長いあいだ電動を使ってきた。1960年代の後半に買った、スミス・コロナの手動タイプライター以来だから、久しぶりとは30数年ぶりだということになる。オリヴェッティのレッテラ35という機種でメキシコ製だ。小さくすっきりまとまった、なかなか好ましいデザインで、小さくても重さはずしりと両手にくる。メモをカードに走り書きするのとおなじ感覚で使うために、この小さな手動タイプライターを買った。短い英文をメモするには、電動よりも手動のほうが、なにかと便利だからだ。手動のタイプライターの弱点は、英文を印字したときに活字の下の線が、プリント・ホイールの電動ほどには、正確に揃わない。印字の弱い活字と強い活字との差ができやすい。

(『酒林』随筆特集 西野金陵株式会社/第60号[2000年10月発行]掲載)

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 自分でLPレコードを買い始めたのは高校生の頃からだ。僕はあらゆる領域の音楽を聴いたから、買うLPの数も多かった。一度は自分の手もとにあったLPの総数は、5,000枚を越えるのではないか。今は500枚ほどが残っている。LPはあるときを境にして、一斉にCDに切り替わった。LPはほとんど作られなくなり、店頭から姿を消した。ジャズを中心とした輸入盤も買いたくても買えない状況となり、僕もCDを買うようになった。そしていま、僕はふたたびLPを買っている。中古のLPだ。定期的に訪ねる中古店は、僕が知る限りの範囲でも20軒はある。店の総数はもっと多い。アナログLPは中古で新たな価値となり、新たな需要を確実に獲得しているようだ。

(『酒林』随筆特集 西野金陵株式会社/第61号[2001年1月発行]掲載)

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2024年8月30日 00:00 | 電子化計画

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