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エッセイ『サーフシティ・ロマンス』より7作品を公開

エッセイ『サーフシティ・ロマンス』(晶文社/1978年)より7作品を本日公開いたしました。

愛するサーフボードを積んだ車で北海岸に向かう。もう間もなく、我が心のノース・ショアだ。風にゆれ動く砂糖キビの、濃い緑の葉のつらなりの向こうにまっ青な海。スウェル(波のうねり)の峰が沖に何本も見える。一番手前の峰が白くブレイクしていく。初めて見たときの、どうしようもない全身に震えが走り抜けるような感動を、誰もが忘れずにいるはずだ。目測で7フィートから8フィートほどの波。すでにテイクオフしたサーファーが落下して飲み込まれるのが見える。その波に乗るために、ここまで来たのだ。

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少し沖でくだけた波が、寄せてはかえす波を、スープと呼ぶ。そのような波がいつもある、海岸に比較的近いあたりをスープ皿と呼んでいる。このスープの中にサーフボードを持って入っていく。波打ち際でボードを波に浮かべ、パドリングの練習を徹底的に練習しておくとよい。波乗りは全身を使わざるを得ない運動だし、海や波や風と裸で触れあうのだから、感覚や官能のよろこびとしてこれにまさるものはない、とぼくは信じている。

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靴をはいて都会で生活している限りは、その生活に自分の体を任せきっている。あらゆる部分が、無理やりに、そして知らず知らずのうちに変形させられてしまっている。どこか海の近くでサーフィンを中心にした生活を送り始めれば、靴なんかはかなくなる。やがて、裸足の足は、自由に空間のなかへ身をのばしていきはじめる。サーフィンを本当に楽しむためには、足の裏から作り直さなければならない。靴を忘れた足の裏は、感覚が鋭くて臨機応変だ。そしてそれは自分の体のバランスの良し悪しではっきりとわかる。

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ゆったりと三角の山に盛りあがって進んでいる波が、岸に近づいてくる途中でなぜ砕けるか、普通のサーファーは、おそらく知らないはずだ。三角に盛りあがった波をひとつ描く。その三角の内側に接する感じで、丸をひとつ描いてみる。水分子は、丸を描いたときのペンの動きのように、波の内部で繰り返し円を描く回転運動をしているにすぎない。遠くまで伝わっていくのは、波の形だけだ。水深が浅くなると、波の内部での水の回転運動ができなくなる。描ききれずに途中でこわれた円が、砕けた波なのだ。波がそのエネルギーを失い、水分子の正しい回転運動が破壊される場所、それが、サーフ(打ち寄せる波)のできる場所だ。

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真っ暗な空間がスクリーンいっぱいに映し出されている。ただ暗いのではなく、深みのある空間から、無数の星が見えてくる。その濃紺の空から濃さが次第に抜けていき、夜が明ける。ノース・ショアの快晴の12月の青空がスクリーンに広がる。それを遮るように何かがせり上がってくる。やがてそれはフィルムの装填風景だとわかり、そのカメラのファインダーを通して、ピンボケだった海の光景が徐々に見えてくる。その視界を、サーフが右から左へと崩れながら通り抜ける。そして、次の光景に切り替わり、真っ赤なボードに乗ったサーファーが現れる。……そんな始まり方をするサーフィン映画は、素敵だと思う。

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アメリカでスケートボードが急に流行しはじめたのは、一九六〇年代の初めだった。いまやボードだけではなく、その楽しみ方やライディングのしかたも大変に進歩した。例えばホイールの性能には、接地性、スピード、コントロールのし易さが要求される。その基本の構造は共通だが、メーカーがトラック(ホイールとデッキを繋ぐ金属パーツ)にも様々な工夫をしている。ボードも材質や製法のバリエーションが多くなった。色や絵柄だけでなく、足の滑り止めやエッジの仕上げなど細部にわたって気を使っている。

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シティ・ボーイは自分が好きになった何か一つのことに対し、徹底的にクレイジーにならないと救われない。自分が存分にクレージーになって初めて、シティ・ボーイは自分の自立の場を手に入れることができるのだ。アメリカのスケートボード映画『スピニン・ホイールズ』(1976)に登場するスケートボーダーたちは、シティの中で今とりあえず可能なクレージーネスのひとつの見本だ。都市がコンクリートで敷きつめられていく途中で生み出されてきたスロープや曲面が、創意に富んだシティ・ボーイたちの手によって、しゃにむに、遊びの現場にされてしまっている。単なる遊びと呼ぶには、どのスケートボーダーも必死でありすぎる。というよりも、必死にならざるを得ないのだ。必死にならなければ、スケートボードなんて、面白くもなんともない。

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2022年10月18日 00:00 | 電子化計画

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