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評論・エッセイ

おいしかった二杯の紅茶

 僕がこれまでに日本で飲んだ紅茶のなかで、おいしさをいまでもはっきりと記憶している紅茶は、二杯しかない。一杯は植草甚一さんの自宅で出していただいた紅茶、そしてもう一杯は、横溝正史さんの軽井沢の別荘で出していただいた紅茶だ。日本で飲んだ紅茶のうち、おいしさで記憶している紅茶はこの二杯だけだ、とくりかえして僕は強調しておきたい。
 一杯の紅茶をおいしくいれるのは、思いのほか難しい。あるいは、一杯の紅茶をおいしく人に飲んでもらうのは、たいへんに難しい。適切にして微妙な加減の重なり合いが、一杯のおいしい紅茶を作る。飲むときの状況…

底本:『アール・グレイから始まる日』角川文庫 1991年

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