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エッセイ

午後の紅茶の時間とは

 いま僕が滞在を許されているお屋敷では、午後三時になると、三時ぴったりに、僕の仕事部屋のドアにノックの音が聞こえる。はい、と僕が返事をすると、お茶のお時間でございます、いかがなさいますか、とドアのむこうから女性の声がきいてくれる。もの静かで品のある、じつに感じのいい初老の女性の声だ。いただきます、と僕は答える。ご用意させていただきます、とその声は言う。
 三分ほどあとに、僕は階下へ下りていく。居間のてまえにある、居間の三分の一ほどの広さのくつろぎ部屋に入った僕は、張り出し窓のかたわらのテーブルにむかって、ひとり椅子にすわ…

底本:『アール・グレイから始まる日』角川文庫 1991年

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