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ステーション・ワゴン

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 十六歳の夏に、父親が、三千六百ドルでステーション・ワゴンの新車を買った。

 夏休みのある日、父親は、仕事の用で、大陸の東側へ、飛行機でいった。

 父親の部屋に入り、ロールトップ・デスクのうえを見ると、キーがひとつ、キー・リングにつけて、置いてあった。自動車のキーだった。まだ新しい。新車のステーション・ワゴンのキーに ちがいない。

 持ち出してガレージへいき、ステーション・ワゴンのイグニションに、そのキーをさしこんでみた。ぴたりとはまった。

 あくる日、悪友たち数人といっしょに、母親がブリッジで家をあけている留守に、ステーショ ン・ワゴンで外に出た。ハイウェイを走り、海岸へいった。

 ハイウェイから海岸へ降りていく道路を使い、ステーション・ワゴンを砂浜に降ろした。波打ちぎわを、飛ばした。

 距離のある、大きな海岸だ。往復して二往復目にいどんだとき、途中でスタックした。タイアが砂にめり込み、動かなくなったのだ。あがけばあがくほどタイアは深く砂に食いこみ、ついには排気管の出口のために穴を掘らなくてはいけないほどになった。

 さて、どうしようかと困っているとき、

「潮が満ちてくる!」

と、誰かが叫んだ。

 満潮時にはステーション・ワゴンが すっぽり水にのみこまれるほど、潮位があがる。

 みんなあわてた。ハイウェイのむこうのサザン・パシフィック鉄道の罐詰工場引込み線路まで走っていき、工場から出てくる貨物列車に乗せてもらって町までいき、町からはパン屋の配達ヴァンで友人の家までいった。彼の父親はウインチのついたジープを持っている。

 全員がそのジープに乗り、彼の父親の運転で海岸へひきかえしたときには、ステーション・ワゴンの赤い屋根だけが、なんとなく長方形に、満ちてくる青い潮のなかに、見えていた。

底本:『コーヒーもう一杯』角川文庫 1980年

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今日の一編

『ステーション・ワゴン』
086_01
福音館書店発行の雑誌『子どもの館』(1980年)に発表された短編。ピカピカのステーション・ワゴンは、宇宙からやってきて、やがて海に還っていく。


1980年 『コーヒーもう一杯』 少年 海岸 父親
2016年8月19日 05:30
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