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女王陛下|アビーロードのB面

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 彼女はその日の午後、郵便局へ行った。オフィスの郵便物を出すためだ。窓口には数人の列が出来ていた。その列に加わり、彼女は自分の順番が来るのを待った。

 あとひとりで自分の順番というときになって、彼女は自分の前にいる人と窓口の女性とのやりとりを、ふと聞きはじめた。彼女の前にいたのは、三十代後半の男性だった。彼は、一通の封書を投函するため、それに必要な切手を買っていた。三枚の切手をひとつずつ指先でつまみ、舌の先で湿らせ、その男性は封筒の端に貼っていった。女王の横顔が印刷してある小さな切手だ。

「なかなかいい女のこだよ」

 自分が貼ったばかりの切手を指さして、その男性は窓口の女性に言った。窓口の女性がなにか答えたが、その言葉は男性のうしろにいる彼女には聞き取れなかった。

「なかなかいい女のこだけど、黙ったまま横をむいてるよ」

 その男性が言った。

 三枚めの切手をなめて貼り、

「人に喋って聞かせる内容を、あまり持ってないんだろうね」

 彼は窓口の女性にそう言った。

底本:『アール・グレイから始まる日』角川文庫 1991年


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アビィーロード

シリーズ・エッセイ|アビーロードのB面|

7月2日|僕はきみが欲しい


6月27日|陽が射してきた


6月28日|なぜなら


7月3日|いつも代金を払わない男


7月4日|サン・キング


7月5日|ミスター・マスタード


7月6日|パムとはパミラのことか


7月8日|彼女は浴室の窓から入って来た


7月9日|ゴールデン・スランバーズ


7月13日|その重荷を背負う


7月15日|The End


7月16日|女王陛下


1969年 1991年 「アビーロードのB面」 「ハー・マジェスティ」 『アビィ・ロード』 『アール・グレイから始まる日』 ビートルズ
2016年7月16日 05:30
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