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エッセイ

ゴールデン・スランバーズ|アビーロードのB面

 この激しい降りようは、いったいどうしたことだろうかと、彼女はひとりで思った。叔母さんの家で過ごした、明るく陽の射す午後が、まるで嘘のようだ。あの午後が終わってから、まだ五時間ほどしか経過していないのだが、あの午後といまとを比べると、いまは完全に別世界だ。まるで異星へ来たようだ、と彼女は思った。
 彼女がいまひとりで運転している自動車は、雨の海を漂う小さな鉄の箱だった。自動車の外側ぜんたいを叩きまくる雨の音が、自動車の内部に充満していた。無数の雨滴は、夜の暗さのなかで、斜めに地上へ落ちてくる銀色の線だった。ヘッド・ライト…

底本:『アール・グレイから始まる日』角川文庫 1991年

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