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エッセイ

僕はきみが欲しい|アビーロードのB面

 雨の町を彼はミラーのなかに見た。うしろから来る車のないことを確認して、左側の歩道へ彼は車を寄せていった。歩道に沿って徐行し、パーキング・メーターのかたわらに車を停めた。
 パーキング・メーターは、うしろの窓のわきに、濡れて立っていた。行きすぎたことをぼんやりと自覚した彼は、車を後退させた。リヴァース・ギアのときのぎくしゃくした動きかたは、最近になっていちだんと強かった。
 車を停め、エンジンを停止させ、彼はワイパーのスイッチをオフにした。左右のワイパーは、左側に寝ておさまった。ガラスの外側ぜんたいに、雨が…

底本:『アール・グレイから始まる日』角川文庫 1991年

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