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評論・エッセイ

東京の隙間を生きる

 東京に生まれた僕は四、五歳くらいまでそこで育った。それから十年近く東京を離れたあと、戻って来てから現在まで、ずっと東京にいる。故郷はどこですかと訊かれたら、東京ですと答える。そこしかないという意味もあるが、東京をなんとか肯定的にとらえようとする意思のあらわれでもある。なんとか肯定的にとらえたい、というような無理を人に強いてくるのが、東京という故郷なのだから。
 東京はたいへんに住みにくい。江戸の始まりからして政治都市だったし、江戸が終わって明治には、近代の荒波のなかで政治都市の性格をいっそう深めた。大正をへて昭和の戦争…

底本:『自分と自分以外──戦後60年と今』NHKブックス 2004年

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