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評論・エッセイ

彼女は浴室の窓から入って来た|アビーロードのB面

 カフェのカウンターのなかで、いつもコーヒーを作っている初老の男性が、カウンターで立ってコーヒーを飲んでいる客に、言っていた。
「そして、どうしたかと言うと、彼女は浴室の窓から入って来たんですよ」
 軽く憤慨したような、そして大いにあきれたような表情で、カウンターのなかの男性はそう言った。そして、おなじ客にむかって、ほとんどおなじ言葉を、彼はくりかえした。
「それでどうしたかと言うと、彼女は風呂場の窓から入って来たんですよ」
 カウンターの客は、笑って首を左右に振っていた。
底本:『アール・グレイから始まる日』角川文庫 1991年

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