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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

醬油味への懐疑の念とは

 自分が食べたものに関する記憶で、もっとも遠くまでさかのぼることの出来る記憶は、いったいなにだろうかと考えた。母乳の記憶はまったくない。生まれたばかりの赤子にとっては、誕生したばかりの命を支えるもっとも大切なものであったはずだが、そして一日に何度も、何日にもわたって夢中で飲んだはずだが、母乳に関する記憶はなにひとつない。ひょっとして、母乳に関する記憶は、あってはいけないものなのだろうか。ふとそんなことを思ってしまうほどに、母乳の記憶はまっ平らなゼロだ。
 二歳の頃の僕が食べていた朝食の、僕がもっとも好んだ定番は、玉子焼きと…