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エッセイ

雨と霧と雲と

 彼は一年にすくなくとも一度は、オートバイで雨のなかを走り、ずぶ濡れになりたいと感じていて、ほとんどいつも、その感じているとおりにしている。春おそくから夏の終わりまでの季節にかぎられてくるけれども、どしゃ降りの雨のなかで愛車ごと、どこもかしこも濡れまくるのは、悪いことではない。
 対向車の長距離トラックは、河のように雨水が流れている路面から、水を逆さの滝のようにはねあげる。オートバイで走っていると、この水が、ちょうど顔に叩きつけられる。小石がまじっていることがしばしばで、ヘルメットをかむっていないときには、こめかみにコキ…

底本:『アップル・サイダーと彼女』角川文庫 1979年

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