トリップ・カウンター・ブルースだってよ
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エンジンをかけるため、路面が硬くて平坦なところへ、バイクを押し出していく。サイドスタンドをあげたとたんに、バイクの重さを全身に感じる。すさまじい重さだ。
かすかなダウングレードを、うしろむきに降りていく。生ゴムのグリップをとおして、ハンドル・バーを握った両手に、バイクの重さのすべてを受けとめる。うれしいような、こわいような、不思議な気持だ。おそらく、こわいのだろう。
フロント・ブレーキでとめて切りかえすとき、燃料タンクの中のガソリンが、音をたてる。小さな波がひとつ砕けたような、かわい…
底本:『アップル・サイダーと彼女』角川文庫 1979年
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