VOYAGER

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評論・エッセイ

ロードライダー

 全身で風を切り裂いて走りつつ、これからの行程を彼は考えた。ロード・マップを頭のなかに描いてみた。目的地までのルートなら、頭のなかにすでに叩きこんで記憶してあった。
 その記憶をたどりなおすと、オートバイにまたがった彼は、軽い目まいのようなものを覚えた。行く手に横たわっているのは、巨大な空間だ。ハイウエイの路面とこのオートバイだけを頼りに、その空間と自分とが、存分に対決しなくてはならない。
 硬く張りつめた、残酷なまでの青空が、頭上と行く手にあった。陽ざしが全身のあらゆる部分をさしつらぬくようにきらめき、風…

底本:片岡義男エッセイ・コレクション『彼の後輪が滑った』太田出版 1996年
『いい旅を、と誰もが言った』双葉文庫 1980年所収

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