風景のなかにむき出しでほうり出されて
ロード・マップに印刷された道路をぼんやりとながめているだけで、かつて体験した旅を、次から次へと、思い出す。
高速の長距離バスで走りぬけてしまうなんて、ほんとによくない。どうしてもバスをつかうなら、町へ着くたびに降りて、走り去るバスの尻を、なんのあてもなく見送ることだ。
しかし、あの四角なガラス窓には、まいってしまう。いつも外の景色がテレビのように退屈で、意味もなく薄味なものに見えるから。
外界とは遮断されたバスの内部から窓ガラスごしに見る光景は、まさにテレビの画面だ。バスの外に降り立つ…
底本:片岡義男エッセイ・コレクション『彼の後輪が滑った』太田出版 1996年