VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

僕が一度だけ見たUFO

 僕はこれまでに一度だけUFOを見ている。あれはUFOだった、としか言いようのない体験なので、僕はUFOを見たと、自分で勝手にきめている。それがUFOであったことに、僕は直感的な確信を持っている。僕が見たのはもっともポピュラーなタイプのUFO、つまり光のUFOだった。
 一昨年の二月なかば、夜中の一時過ぎに、その当時滞在していた家の居間のガラス戸を開いて、僕は夜の庭を見ていた。空気は冷たく夜は静かであり、僕はいい気分だった。明かりがひとつだけ灯っていたかなり広いその庭のあちこちを、僕は見るともなく見ていた。


底本:『アール・グレイから始まる日』角川文庫 1991年