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評論・エッセイ

8月12日 避暑地

 真夏の、たいへんに暑い日曜日の午後、ひとりで都心の部屋にいた。暑い、暑い、と言っていたら、女性の友だちから電話がかかってきた。高原の避暑地で三日間を快適にすごしたいという気持はないか、と彼女はぼくにきいた。
 彼女は、素敵な女性だ。声も、涼しい張りがあって、美しい。その彼女から、高原の避暑地とか三日間とか、快適にすごす、とかの言葉を聞かされてたちまちその気になってしまったぼくは、もちろんそのような気持は大いにある、とこたえた。
 いったいどうすればこの暑い東京を抜け出し、高原の避暑地でわずか三日間といえど…

底本:『すでに遥か彼方かなた』角川文庫 一九八五年

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