彼の後輪が滑った
オートバイに触発された十四篇の短文集。春の風に散る桜の花びらから、ノートン・コマンドの変速比まで、思いはS字を駆け抜け、直線を飛び、起伏を滑空する。
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道路のかたわらに、ぼくはオートバイを停めた。オートバイを降り、道路に接している広い草地のなかに入っていった。
頭上には、青い空が広がっていた。明るい陽ざしが、その空の下の空間を埋めていた。草地の上に陽ざしは降り注ぎ、風が吹いた。オートバイで走りながらこの草地を見渡したとき、ぼくは思った。草地のなかへ歩いて入っていき、空をあおいで寝そべっ…
底本:片岡義男エッセイ・コレクション『彼の後輪が滑った』太田出版 1996年
『個人的な雑誌1』角川文庫 1987年所収
初出:『野性時代』1987年6月号
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