昼月の幸福
季節を問わず、午後、まだ明るい時刻、ブルーがすこしだけ淡くなった空をふと見上げてそこに月があると、僕はたいへんにうれしい。青い空を底なしの背景として、白い小さな月が遠くにぽつんと浮かんでいる。小さいけれども、その存在の感触は、絶対的に確かだ。あ、今日はあそこに月がある、うれしい、という気持ちに、僕はかならずなる。
青い空を背景にしたその小さな月の白さは、ほかのものにちょっと真似の出来ない、微妙で複雑な、そして余計な雑念のいっさいない、美しさをきわめた瞬間のような白さだ。
まだ昼間の空に浮かんで太陽の光…
底本:『昼月の幸福──エッセイ41篇に写真を添えて』晶文社 1995年
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