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エッセイ

このとおりに過ごした一日

 五月なかばのよく晴れた日。高校三年生の僕は、自宅にあったすべての教科書を入れた鞄を持って、ひとりで駅に向けて歩いていた。教科書をすべて鞄に入れたのは、時間割りがどこかへいってしまい、その日の授業がなにとなにだったか、わからなかったからだ。三年生になったばかりの頃は、一週間の時間割りを僕は記憶していた。しかし、しばらく学校へいかない日が続くと、時間割りなどたちまち忘れてしまう。
 住宅地のなかの坂道を上がりきった僕は、そのまっすぐ前方でおなじような道とTの字に交差するところに向けて、歩いた。駅へいくには、そのT字交差を左…

底本:『坊やはこうして作家になる』水魚書房 2000年

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