VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

MENU

評論・エッセイ

彼女たちに名前をつけるとき

 小説を書く僕にとって気になるのは、登場人物たちに名前をつけることだ。名前を考えずに書きはじめると、名前を特定しなければならない状況が、遅かれ早かれかならずやってくる。そうだ、名前をつけなくてはいけない、と思うと同時に、なぜ名前が必要なのだろうかと、不思議な気持ちにもなる。
 僕に名前があり、ほかの人たちすべてに名前があるのとおなじく、小説のなかに出てくる人たちにも名前があるのさ、と言われてしまうとそれっきりだが、名前というものは妙なものだ。十五人も二十人も人物が登場する小説だと、その数だけ僕は名前を考え、あてがっていか…

底本:『アール・グレイから始まる日』角川文庫 1991年

このエントリーをはてなブックマークに追加