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評論・エッセイ

本を開いたらチューリップが咲いた

 世のなかに本ほど奇妙なものはない。四角く切った薄い紙が何枚も、一辺においてのみ綴じてあり、その結果として何枚もの紙はページとなり、指先で順番にあるいは順不同に、めくることが出来る。ページには文字や絵が印刷される。どの本も、世界という一冊の巨大な本の、部分的な超縮小版だ。
 イギリスで発行された植物に関するごく一般的な本のなかの、チューリップの絵を僕は写真に撮った。チューリップは本に次いで不思議な花だ。不思議な花が不思議な本のなかで、ものの見事に二次元だ。それを僕は、写真というさらに不思議なものに、変えてみた。夏の終わり…

底本:『昼月の幸福──エッセイ41篇に写真を添えて』晶文社 1995年

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