VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

MENU

評論・エッセイ

彼女の部屋の、ジャズのLP

 ぼくが彼女にはじめて会ったとき、ぼくはまだ少年であり、彼女は五歳年上の大人の女性だった。すっきりと成熟をとげた、いい雰囲気をたたえた、優しい、そして芯のある女性だった。
 彼女と知り合ったのは、当時のぼくの自宅から歩いて十分ほどのところにあったビリヤードだ。二階はダンスの教習所になっていて、彼女はそこで上級者のダンシング・パートナーをときたま務めていた。いつもは、階下のビリヤードにいた。そこで働いてたわけではない。しかし、いつもそこにいたのだ。奥の階段を二階から彼女が降りてくるときの様子は、まるで映画スターのようだった…

底本:片岡義男エッセイ・コレクション『「彼女」はグッド・デザイン』太田出版 1996年
『きみを愛するトースト』角川文庫 1989年所収

このエントリーをはてなブックマークに追加