片岡義男.com 全著作電子化計画

MENU

エッセイ

白い縫いぐるみの兎

 一九四五年の二月の後半、五歳の子供だった僕は、両親とともに東京駅から汽車に乗り、途中で一度も乗り換えることなく、東海道線そして山陽本線とたどっていき、山口県の岩国に到着した。汽車のなかで一泊し、合計では二日以上かかったと思う。汽車が混んでいた記憶はない。僕たちは座席にすわりとおすことができた。嫌な出来事はいっさいなにもなく、きわめてすんなりと僕たちはその旅を終えた。東京に生まれ育ち、東京の坊やとしてひとまず出来上がっていた五歳の僕にとって、その汽車旅は最初の旅行となった。
 一九四五年の二月の後半と言えば、アメリカの機…

このエントリーをはてなブックマークに追加