アップル・サイダーと彼女
アメリカの農業地帯に入りこんでいることは、数日まえからわかっていた。夜のモーテルで見るテレビに、たとえば肥料のコマーシャルが多くなっていたし、昼間、ハイウェイを走るときには、農作業用のトラクターやコンバインをつんだトラックと、ひんぱんにすれちがった。トラックは、古い年式のものが多かった。質実剛健なアメリカのファーマーたちは、どんな機械でも、修理に修理をかさね、なだめすかし、悪態をつき、徹底的に使いこむ。
アップル・カントリーにさしかかった日の朝、広大な田園地帯を抜けていくステート・ハイウェイでおいしいアップル・サイダ…
底本:『アップル・サイダーと彼女』角川文庫 1979年
関連作品
前の作品へ
次の作品へ