VOYAGER

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評論・エッセイ

10月22日 台風

 夜明けがはじまる時間に、ぼくたちはランドクルーザーでその港町に着いた。ぼく、そして友人の、ふたりだ。台風が上陸する地点まで出かけて、上陸してくる台風を鑑賞しようという、ひま人の呑気な旅だった。そして、その港町は、ぼくたちの旅にとっての、目的地だった。
 町の裏側を国道が抜けていた。その国道から港のはずれにむけて、まっすぐに道路がのびていた。国道を走ってきたぼくたちは、その道路に入った。いつも海と向きあって生きている町であることを感じさせる、おおらかな幅の広い道路だった。道路の両側には、小さな港町のひなびた家なみが、夜明…

底本:『すでに遥か彼方かなた』角川文庫 一九八五年

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