フラストレーションという負のエネルギーは、マイナスのものばかりを呼び集める。そして最後に小さな悲劇として結晶する
二、三年前の夏、日本がいちばん暑いころ、僕はラッセル・バンクスの『コンティネンタル・ドリフト』(邦訳は早川書房『大陸漂流』)を読んだ。一週間ほどにわたって真夏のあちこちを移動しながら、その先々で読んでいった。読み終わったのは宵山の京都の、冷房のきいたホテルの部屋でだった。ペーパーバックで四百二十ページあった。面白ければ読みごたえ充分の量だ。小さな活字で物語がびっしりと詰めこんであった。そしてその物語は、素晴らしく面白いものだった。僕は夢中で読んだ。
主人公はニューハンプシャーに住んでいる三十歳の白人男性だ。結婚してい…
底本:片岡義男エッセイ・コレクション『本を読む人』太田出版 1995年
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◆関連リンク
片岡義男古書目録01-『大陸漂流』
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