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小説『青年の完璧な幸福』より3作品を公開

『青年の完璧な幸福 片岡義男短編小説集』(スイッチ・パブリッシング/2007年7月)所収の小説3作品を本日公開しました。

1967年5月、27歳の小野田良彦は雑誌のフリーライターとして日々を過ごしていた。大学を卒業して5年、雑誌の編集者からは「ここから先を展望するなら、このあたりで小説を1冊書くべきだ」と忠告されている。そんなある日、駅へ向かう途中に幼い頃からの顔なじみで4歳年上の水上朱音と久しぶりに出会う。大学で講師をしているという朱音と共に神保町で食事をしお互いの近況などを話した2人は、その後深い関係になっていく。良彦は彼女のことを知れば知るほど、彼女という人そのものが一層際立ってくることに気がつき、やがて自分にとって彼女は、究極の他者ではないのかという考えに達する。そして「どこにもいない人による、どこにもない物語」を書くという小説への取っ掛かりを得る。1960年代後半の神保町や新宿の文壇バーを舞台に、当時からあった女性の社会参加や自立の問題について、同級生の苦悩、遠距離恋愛など、一つの短編小説の材料になる要素がいくつも詰め込まれた一篇。

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ゆくゆくは小説を書こうと考えている27歳のライター・大塚昌平はある豪雨の夜、平井美佐子が営む新宿のバーへと駆け込む。30歳の美佐子は数年前まで映画女優をしていた。そこに小説雑誌の編集長・黒田がやってくる。黒田は女優として美佐子が出演した映画をすべて観ているというファンでもある。美佐子が主演したアクション映画について談義をするなかで、昌平は2人から何度も小説を書くことを勧められる。後日、再び黒田から美佐子が出演した映画の話を聞くうちに、昌平はスクリーンの中で彼女が演じた「どこにもいない幻の女」を巡って観客が感じる感情が、自分が書くはずの、まだ内容も主題も決まっていない小説を読んだ読者の感情と繋がっているのではないかと思い始める。いかにも当時の映画会社が撮りそうな、架空のB級アクション映画の描写も冴える、虚構についての物語。

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主人公は物書きの次の段階として小説を書くしかない、と考える27歳の主人公・村瀬俊介。ラジオ局のディレクター・川崎建二郎に選曲を依頼されたLPレコードを届けに行った際に、音楽番組での新しい女性DJ探しを依頼される。俊介が推薦したのは高校の同級生で、今は母親の食堂を手伝っている村上由起子。2人は付かず離れずのかなり親しい友人同士の関係を保ってきており、由起子にとって俊介は諸々の相談相手として手頃な存在でもあった。翌日、川崎との待ち合わせのため早めに由起子の店に入った俊介は、自身の記憶の中にある現実の由起子とは全く別の、想像の中で時間をかけて創作した、彼だけの由起子が姿を表してきたことに気づく。それはまさに小説が生まれる瞬間であり、小説家が生まれる瞬間の幸福でもある。

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※なお、『青年の完璧な幸福 片岡義男短編小説集』所収の『アイスキャンディは小説になるか』は、こちらからお読みいただけます

2024年2月9日 00:00 | 電子化計画

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