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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

タイプライターで原稿を書くとき

 写真に撮られたアーネスト・ヘミングウェイは何点も見た。すべて記憶は曖昧だが、一点だけいまでもはっきり覚えている写真がある。ハヴァナの自宅で撮影された彼のうしろ姿の全身だ。
 壁に寄せて小さな四角いテーブルがあり、その上にタイプライターが一台あり、ヘミングウェイはそのタイプライターに向かって立ち、おそらくなんらかの原稿を書くためにキーを叩いていた。プールで過ごすときの、確か柄物のショートパンツ一枚で、彼はタイプライターに向かっていた。タイプライターで原稿を書くときには、このように立って作業を進めるのです、という説明文が添…

底本:『文藝春秋』2018年1月号

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