小さな旅、愉快な思い出
朝の八時からいっしょに続けてきた仕事を、午後の二時に終わり、ぼくはその仕事相手の女性とふたりで、建物の外に出てきたのです。きれいに晴れた。五月の午後でした。ゆっくりコーヒーを飲もう、ということになり、どこの店がいいか考えていて、ぼくは、京都(きょうと)のお気にいりの店を思い出したのです。京都へいこうかと、半分は冗談で彼女に言うと、彼女は大賛成でした。すぐに東京駅へいって新幹線に乗り、京都へいき、そこで上出来のエスプレッソを楽しんだのです。別々にホテルに泊まり、あくる日も別々に帰ってきました。コーヒー一杯だけの、小さな旅です。
底本:『きみを愛するトースト』角川文庫 一九八九年
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