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エッセイ

コーヒーに向けてまっ逆さま

 一九六六年だった、ということにしておこう。誤差はあったとしても、せいぜい半年から一年だ。季節は夏の終わりだった。これは体の記憶としてまだ正確に残っている。そして僕は二十六歳だった。
 いつものように神保町で喫茶店をはしごしながら原稿を書いた僕は、一日の仕事を早めに切り上げ、お茶ノ水駅から中央線の快速に乗り、新宿駅まで戻って来た。新宿に着いて夕方の五時半くらいの時間だった。僕はまだ半袖シャツを着ていた。しかし季節はすでに九月の第一週を過ぎつつあった。半袖シャツは、そのような季節にそぐわなかった。暑い真夏なら夜まで僕は神保町…

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