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エッセイ

彼女の林檎

 きれいに晴れた、美しい一日だった。赤城有料道路夏の香りはまだ充分にあるのだが、盛夏のころにくらべるとたとえば空はずいぶん高くなっていて、その高くなったぶんだけ透明さの度合いを高めていた。
 雲は、これも正直者だから、秋の雲になっていた。風が心地よかった。この風にも、秋のいちばん最初のまえぶれが、はっきりと感じることができた。
 ライダーであるぼく自身の体や気持の内部ではまだ夏がつづいていたのだが、外の自然環境はすでに夏の後姿を見送りつつあった。
 風や陽ざしを感じとる自分の感覚に、さっくりと…

底本:『コーヒーもう一杯』角川文庫 1980年

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