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エッセイ

なぜいま僕はここにいるのだろうか

 尾道は三度めだ。最初は僕が六歳か七歳の頃、父親の運転する米軍の車で通り抜けた。敗戦後まだ日の浅い時期だ。夏の暑い日だった。二度めは三年まえ、ある雑誌の連載記事の取材のため、編集者そして写真家とともに、坂の町と誰もが言うこの町を半日かけて歩きまわった。そのときとおなじ写真家、佐藤秀明さんとふたりで、つい先日、僕は三度めの尾道を歩いた。
 JRのすぐ海側に沿って国道が駅にむけて下り坂で下りていき、下りきって右側に駅があり、駅前を抜けるとそのまま国道は直線で西にのびていく、という位置関係は、六、七歳の頃の僕がほんの一、二分に…

底本:『ノートブックに誘惑された』角川文庫 1992年

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