VOYAGER

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評論・エッセイ

道路の小説を書きたい

 ぼくは日本の地形と気候が好きだ。地形も気候も、ともに独特であり、このふたつが重なりあった日本は、興味がつきない。
 この小さな列島は、亜寒帯から亜熱帯にまで、わざわざまたがるのを意図したかのように、細長い。複雑な海岸線を持ち、古い造山運動のおかげで、景色はなだらかさやおだやかさを中心にしている。日本のどこから自動車で走っても、海にむかって走るなら一五〇キロ走らないうちに海に出てしまう。
 気候は、雨の島だ。梅雨の頃に飛行機で外国から帰ってきて、機上から見下ろすと、その日本は、植物や樹の緑と勢いが、すさまじい。…

底本:『きみを愛するトースト』角川文庫 一九八九年

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